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現代戦争論の表紙

現代戦争論

ロシア・ウクライナから考える世界の行方


本書の要点

  • この戦争では多くの民間人が犠牲になっている。戦争の危険が迫っていても、高齢者や障害者など、避難が困難な人は必ず残ってしまう。

  • ロシアはプロパガンダを使う傍ら、巧妙に国民感情を調整することでこの戦争を国民に受容させてきた。貧困層は多額の報酬を受け取ることで、多くの市民の代わりに血を流している。

  • 日本はウクライナを支援している場合ではないのだろうか。だが日本が単独で「軍事大国」に対抗することは困難である以上、今後の安全保障の危機を考えれば、国際社会に「見逃す」インセンティブを与えてはならない。

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どれだけの人が死んだのか?

抽象化されていく犠牲

DmyTo/gettyimages

ロシアのウクライナ侵攻が始まった当初、この戦争で死んだ人間一人一人の悲劇に共感や同情が集まった。しかし、犠牲者の桁数が膨れ上がるにつれて、次第に「10万人あたり」とか「%」といった形で抽象化されるようになった。数字の上ではたった一つの死であっても、当人やその身の回りの人々にとっては取り返しのつかないものであり、何となく見過ごされていいものではない。こうしている間にも、家庭や職場を自爆ドローンや爆撃が襲い、死は積み上がり続けている。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のウクライナ人権監視ミッション(HRMMU)の定期報告によると、2025年9月のデータで、戦争が始まって以来の累計死傷者数は5万1924人に及ぶという。しかもこの数はあくまでもHRMMUが把握できたもので、データの97%はウクライナ政府の施政権が及ぶ範囲内のものだ。

ロシアの占領地域における死者数について、マリウポリを例に考えてみよう。マリウポリという都市は、侵略当初に激しい攻撃を受けて孤立した。市内の凄惨な様子についてはAP通信の記者2名が報告している。道端に遺体が散乱し、水も電気も絶たれた街で生き延びようとする人々、爆撃の中で救命を続ける医療従事者たち……。こうしたなかで、アナリストたちが衛星画像で公営墓地を分析したところ、開戦初年度の同市では、平時よりも8000人分ほど多くの墓地が作られていた。他の都市でマリウポリに匹敵する大量死が起きたかは定かではないが、国連が把握しているよりもずっと多くの犠牲者が出ていることはほぼ確実だ。

「腕」「顎」としか書かれていない墓標

これに加えて、マリウポリで確認された墓標は、葬られた人の数と正確に同じではない可能性が高い。戦時下のウクライナに足を運んだ経験がある国末憲人特任教授(元朝日新聞記者)の話によると、亡くなった人の遺体はバラバラになっていることが多く、墓地に行ってみると「腕」とか「顎」としか書かれていない墓標がたくさんあったという。戦争で用いられる巨大な物理エネルギーの前では、遺体が原型をとどめているケースのほうが稀なのかもしれない。

現在のウクライナでは短期間で一般市民が大量に死傷する事態は避けられている。戦争の長期化に伴い住民を避難させるなどの措置が取られるようになったからだが、初期は対応が間に合わないまま市民が戦争に巻き込まれることが多かった。

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要約公開日 2026.03.14
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