環境負荷を「見える化」する
LCAという手法

かつて企業にとって、脱炭素は「コスト」でしかなかった。環境対応は義務的な作業として後回しにされがちだった。
しかし2015年のパリ協定を境に、状況は一変した。気候変動は環境だけでなく経済・社会全体の課題へと格上げされ、すべての国と地域が1.5℃以内という地球温暖化目標のもとでの行動を求められるようになったのだ。
CO²の排出者に金銭的負担を設けるカーボンプライシングなどの導入により、CO²の排出そのものがコストとなる一方、「削減に成功すれば経済的なメリットを得られる」構造が整った。環境対策はもはや、戦略的投資のような位置づけとなっている。
日本でもGX(グリーントランスフォーメーション)リーグの設立により、「CO²排出量の算定や開示を求められる企業」が増えている。ESG投資の拡大も相まって、環境への取り組みは「消費者や投資家から選ばれる条件」、ひいては「ブランド価値を高める手段」として、企業経営の中核に据えられつつある。
こうした流れの中で重要性を増しているのが、LCA(ライフサイクルアセスメント)だ。LCAとは、原材料の採取から生産・使用・廃棄に至るまで――すなわちライフサイクル全体――で、製品やサービスがどれほどの環境負荷を生んでいるか、定量的に評価する手法である。
たとえばスマートフォン1台をとっても、製造工場でのエネルギー消費だけでなく、鉄やプラスチックといった素材の生産・輸送段階でもCO²は排出される。それに加えて、水の使用量や化学物質の有無、土地の改変など、多面的に環境負荷が数値化される。
こうして得られたデータをもとに、「どの工程が最も環境に負荷をかけているのか」を見極めることで、何を改善すれば効果的かを判断できるようになる。実際にLCAの結果を活かしてエネルギー効率を高めたり、再生可能な素材への切り替えを進めたりと、「環境と経済の両立につながる事例」が生まれている。
生物多様性とLCA
LCAの守備範囲は気候変動だけではない。近年、生物多様性への損失が企業経営にとってのリスクとして意識されるようになっている。原材料の調達が特定の生態系に依存している場合、その生態系が劣化すれば供給が不安定になる。逆に、事業活動が自然環境に悪影響を及ぼしていれば、規制強化や消費者の離反を招きかねない。
こうした自然資本に関するリスクと機会を、企業が財務情報として開示するための国際的な枠組みがTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)である。TNFDは、自社のバリューチェーン全体について、自然資本への依存度と影響を特定・評価し、開示することを企業に求めている。 その評価(Evaluate)で力を発揮するのがLCAなのである。




















