若者が去っていく職場
若者が去っていく職場
人事部は知らない! 若者の離職の本音
NEW
若者が去っていく職場
出版社
出版日
2025年06月05日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.5
革新性
3.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

「なぜ若者は、あっさり辞めてしまうのか」「どうすれば、若者のやる気を引き出せるのだろう」。そんな嘆きを口にしたことがある人は多いだろう。だが、その問いの立て方そのものが、もはや古いのかもしれない――そう気づかせてくれるのが本書だ。

著者の上田晶美氏は、日本で初めて「キャリアコンサルタント」という肩書きを名乗り、これまでに約2万人のキャリア相談に応じてきた第一人者だ。大学生の就職支援から、社会人の転職支援、主婦の再就職支援まで幅広く関わり、現在は100人規模の講師陣を擁するキャリア支援会社を経営している。

本書は、「3年で転職」が前提となりつつある若者世代のリアルな価値観を明らかにしながら、旧来型のマネジメントではもはや通用しないことを丁寧に示していく。若者に共通する思考や不安、行動原理に寄り添いつつ、どうすれば若者と信頼関係を築き、相手の能力を引き出せるか、具体的なコミュニケーション術や制度設計のヒントが提示されている。

特に、「職場内にロールモデルがいない」「キャリアパスが明確に示されていない」ことが、若者の不安や早期離職につながるという指摘は重い。これからの職場に必要なのは、「辞めさせない努力」ではなく、「辞めても関係が続くような関係性の構築」であるという主張も、多くの上司にとって新鮮だろう。

若者との関係づくりに悩む上司や新人採用・育成に難しさを感じている人事担当者・経営層に、本書は多くの気づきを与えてくれるはずだ。

著者

上田晶美(うえだ あけみ)
株式会社ハナマルキャリア総合研究所代表取締役。
1983年、早稲田大学教育学部卒業。同年流通企業に入社し、広報、人事教育などを経験。1993年、日本初のキャリアコンサルタントとして創業。大学生の就職、社会人の転職、主婦の再就職の支援に携わる。これまでに約2万人の相談を受けてきた。
現在は100人の講師が登録する会社を経営しながら、「仕事の悩みをゼロにする」ことを目標に活動中。テレビ、ラジオにも出演多数。都内の大学で講師を務める。
近著に『女子が一生食べていける仕事選び』(草思社)がある。
https://hanamaru-souken.com/

本書の要点

  • 要点
    1
    若者の多くが転職を前提に就職し、3年以内に離職するのも珍しくない現在、企業主導の人事異動ではキャリア形成が難しくなっている。今後は従業員の「キャリア権」を尊重し、自律的な働き方を支援する職場づくりが求められる。
  • 要点
    2
    若者の多くは「3年で転職」が前提という感覚で働いているため、今の職場でしか通用しない経験や昇進には魅力を感じにくくなっている。
  • 要点
    3
    「会社を辞めることは悪」という考えは時代遅れとなった。重要なのは「どうすればストレスを減らし、心地よく共に働けるか」を考える姿勢である。

要約

若者が実践する「自分軸の働き方」

転職前提で入社する若者たち

リクルートの調査(2022年)によれば、20代の約8割が転職を視野に入れている。

「現在在籍する会社でどれだけ働き続けたいか」という問いに対し、「定年・引退まで働き続けたい」と答えたのはわずか2割(20.8%)。「20年」は5.4%、「10年」は13.7%、「5年」は15.6 %と、勤務年数が短いほど割合が高くなる。「2.3年」と回答した人は約3割(28.3%)に達し、「すぐにでも退職したい」という声も16.2%あった。

さらに、学情の調査(2023年)では、就職する前から約6割が転職を前提として就職しているという結果も出ている。

キャリアは「会社に委ねるもの」ではなく「自分で選ぶ」時代
kyonntra/gettyimages

会社には「人事権」がある。それゆえ会社員は、本人の意志に関係なく、会社の都合で異動させられる。こうした人事異動に従っていては、自らのキャリアを築くのは難しい。

そのような背景から近年、注目されつつあるのが「キャリア権」という概念である。

キャリア権とは、自分自身でキャリアを築く権利のことを指す。多くの経験を積んでゼネラリストを目指すのも、一つの専門を極めるのも、個人が選択するべきだという考え方である。

キャリア権の概念がなかった時代には、人事異動はある種やむを得ない制度とされていた。

しかし、2010年頃からは「特定総合職」という制度が導入され、「総合職よりも給与は2~3割低いが、転勤は関東一円の1都6県に限定」といった別枠のキャリアコースが生まれてきた。

また、近年では「配属ガチャ」という言葉も一般化し、配属の仕組みを見直す企業も出てきている。たとえば三井住友銀行では、2025年4月入社の新卒社員から、最短2年目で海外配属を確約する採用コースを新設した。「配属ガチャ」を排除することで、英語力を備えた優秀な人材を確保する狙いがあるという。

「配属ガチャ」や「人事異動」によって、企業はゼネラリストを育成し、将来的な管理職へのステップを踏ませようとしてきた。

しかし、現在では若者の約8割が転職を視野に入れ、6割が転職前提で就職し、3割が3年以内に離職しているのが実情である。管理職にならないのであれば、ゼネラリストとしての経験は報われにくい。今後は、個々人が自らのキャリアを考え、キャリア権を軸に行動する時代となっていくだろう。

「キャリア権」を尊重し、自律的なキャリア形成を支援する会社づくりこそが、今後は求められるのではないだろうか。

若者とのコミュニケーションの極意

3年で転職するルールを前提に
west/gettyimages

同じ職場で働く若者たちと、どのようにコミュニケーションを取っていけばよいのか。

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要約公開日 2025.08.04
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