クローゼットを開けると、色とりどりの服が並んでいる。まるで小さなブティックだ。お気に入りのシャツ、旅行で買った小物たち。その一つひとつが、私の選択の軌跡である。
それなのに、「着たい服がない」。こんなにたくさんあるのに、どれもいまの気分に合わないのだ。なぜ、こんなことが起きるのか。
あんなに悩んで買ったのに、買った時の高揚感は戻ってこない。あの出費はなんだったのだろうか……。こんなにも買ってしまった、過去の買い物を反省する。
それでも、好きな服を着るとうれしくなって、がんばろうという気持ちになるのは真実だ。きっとこの途方に暮れる気持ちも、反省する気持ちも、大事な自分の一部なのだろう。
待ち合わせの場所で人を待つ。どんな話をしようか、どこに行こうか。ワクワクしながら相手を待つ。
来た! だけど、まだこちらに気づいていない。手を振ったら気づいたようで、手を振り返してくれた。でもその隣には……見知らぬ誰かがいる!
ふたりで会う約束だったのに。ふたりでしか話せないことを話したかったのに。あなた誰? ふたりだけの時間を返してよ!
「ごめん、友達も来ることになったんだ。気が合うと思って」
期待でふくらんだ気持ちが、一瞬でしぼんでいく。心の中では「なんで言ってくれなかったの?」と黒い感情が渦巻いているのに、無理やり笑顔を作ってしまう。
よき出会いになると思って、親切心から誘ったのかもしれない。でも、ふたりで会う時間は特別なのだ。ふたりだからこそ醸し出される空気感、親密さや自由さ。それは誰かが入ることで、急に色あせてしまう。そんな「裏切られた感」を、一方的に抱いてしまうのだ。
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