ゴールドプランなら4,000冊以上が全文読み放題! 7日無料体験はこちらから

本書の要点

  • 自己実験へと科学者を駆り立てるのは「知りたい」という強い好奇心である。

  • 科学のために体を張ってきた人々がいるおかげで、私達の生活は直接的・間接的に様々な恩恵をうけている。

  • 見事にうまくいった実験もあれば、失敗を通して医学の役に立った悲しい事例もある。

  • 一歩間違えば命にかかわる自己実験だが、なくなることはないだろう。動物実験やコンピュータ・シュミレーションでは十分でない領域が、依然として多く残されているからだ。

1 / 3

【必読ポイント!】痛みを征服した科学

実験に没頭した2人の歯科医師

麻酔なしで抜歯に耐えることができる読者はいるだろうか。麻酔が存在しなかった頃の人々はどうしていたのだろう。実は、歯を抜く痛みよりも歯痛のほうがましといって、虫歯になろうと歯が折れようと、ひたすら我慢していたという。だが、2人のアメリカ人歯科医師、ホレス・ウェルズとウィリアム・トマス・グリーン・モートンが、自分を実験台にして麻酔を発見したため、世界が大きく変わった。

ウェルズとモートンは、ボストンで歯科医院を一緒に経営していた。ある日ウェルズは、別名「笑気ガス」と言われる亜酸化窒素を扱った公開実験を見てひらめいた。亜酸化窒素を吸った客が会場中を狂ったように踊り始め、すねに深い傷を負ったが少しも痛そうにしていなかったのだ。歯を抜くときに患者に笑気ガスを吸わせたらどうだろう。ウェルズは自分で亜酸化窒素を吸って歯を抜いてもらうのがいちばんだ、と自らを実験台にすることにした。

実際にウェルズが亜酸化窒素を吸い込むと、顔から血の気が失せていった。そこで歯をねじりながら引き抜いてもらう。この間ウェルズは痛みを感じなかったという。このとき彼は、亜酸化窒素が麻酔に使えると確信した。そして、亜酸化窒素の鎮痛効果を示す公開実験の機会を得るが、残念ながらウェルズは実験に失敗してしまい、完全に面目を失ってしまった。

一方、ウェルズのかつてのパートナーであったモートンは、麻酔として硫酸エーテルを用いることを検討していた。当初、実験はなかなか思うようにいかなかったが、原因はエーテルの純度にあるとわかると、モートンはすぐさま純粋なエーテルを手に入れた。そして、自分を実験台にして実験を成功させてしまった。

モートンの妻はその日のことをこう話している。「(中略)その晩おそくに帰宅した夫はひどく興奮していました。でも、うれしくてたまらない様子で、何があったのか落ちついて話せないほどです。私も気持ちが高ぶって、早く聞きたくて仕方がありません。夫はようやく自分の体で実験したことを話してくれました。彼がひとり研究室で死んでいたかもしれないと思うと、私は切なくなりました」。この時のモートンは、もはやだれも止められなかった。

名誉の陰の悲しい物語

RyanKing999/iStock/Thinkstock

更なる研究を重ねたのち、モートンはエーテル麻酔の公開実験に成功した。ウェルズの大失敗以来はじめて、麻酔ガスに対する見方が大きく変わった瞬間であった。

もっと見る
この続きを見るには...
残り3267/4283文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2014.06.20
Copyright © 2026 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

生き物たちの情報戦略
生き物たちの情報戦略
針山孝彦
その科学があなたを変える
その科学があなたを変える
リチャード・ワイズマン
滅亡へのカウントダウン
滅亡へのカウントダウン
鬼澤忍(訳)アランワイズマン
響きの科楽(かがく)
響きの科楽(かがく)
ジョン・パウエル小野木明恵(訳)
気候変動はなぜ起こるのか
気候変動はなぜ起こるのか
ウォーレス・ブロッカー川幡穂高(訳)眞中卓也(訳)大谷壮矢(訳)伊左治雄太(訳)
未来への6つの約束
未来への6つの約束
日本大学N.研究プロジェクト(編)
フラクタリスト ―マンデルブロ自伝―
フラクタリスト ―マンデルブロ自伝―
ベノワ・B・マンデルブロ田沢恭子(訳)
科学の扉をノックする
科学の扉をノックする
小川洋子

同じカテゴリーの要約

会話の0.2秒を言語学する
会話の0.2秒を言語学する
水野太貴
スマホ脳
スマホ脳
アンデシュ・ハンセン久山葉子(訳)
FACTFULNESS
FACTFULNESS
ハンス・ロスリングオーラ・ロスリングアンナ・ロスリング・ロンランド上杉周作(訳)関美和(訳)
無料
新版 科学がつきとめた「運のいい人」
新版 科学がつきとめた「運のいい人」
中野信子
新版 「空腹」こそ最強のクスリ
新版 「空腹」こそ最強のクスリ
青木厚
最強に面白い 睡眠
最強に面白い 睡眠
柳沢正史(監修)
非常識な「ハイブリッド仕事論」
非常識な「ハイブリッド仕事論」
文化放送 浜カフェ(著)入山章栄(編)
精神科医が見つけた3つの幸福
精神科医が見つけた3つの幸福
樺沢紫苑
一流の研究者たちが教える 快眠の科学
一流の研究者たちが教える 快眠の科学
伊藤和弘三島和夫(監修)
医者が教える食事術 最強の教科書
医者が教える食事術 最強の教科書
牧田善二