他人の目が気になりイライラしたり、不安になったり……。そんな「気疲れ病」に心当たりはありませんか? 心理学者の内藤誼人さんも、最近「なんだか疲れやすくなった」「ちょっとしたことにイライラしてしまう」「人の目が気になって仕方ない」といった悩みを聞くことが増えたといいます。 本記事では、内藤さんの著書『気にしない習慣』『イライラ・不安・ストレスがおどろくほど軽くなる本』(共に明日香出版社)より、もっと毎日を生きやすくするヒントを心理学の視点からひも解いていきます。
最近、あなたはこんな経験をしていませんか?
・メッセージの返信が遅れると「嫌われたかも……」と不安になる
・会議で発言した後「変なこと言ってないかな」と何度も考え直してしまう
・SNSの投稿に「いいね」がつかないと落ち込む
これらは現代社会における「気疲れ」の典型的な症状です。私は心理学者として20年以上研究を続けてきましたが、ここ数年で「気疲れ」の相談が急増しているように感じています。
特にコロナ禍以降、マスク越しの会話やリモートでのやり取りが増え、表情や声のトーンといった非言語コミュニケーションが減少しました。その結果、「相手がどう思っているか」が読み取りづらくなり、多くの方が余計な不安を抱えるようになったと考えられます。
気疲れの原因の一つに「スポットライト効果」があります。これは「自分が舞台上にスポットライトを浴びているかのように、周りから注目されている」と感じる心理現象です。
ある実験では、他人から見られると恥ずかしくなるような柄の入ったTシャツを着せて教室に入ってもらい、「何人の人があなたのTシャツに気づいたと思うか」を尋ねました。参加者の予想は平均で約半数でしたが、実際に気づいた人は2割以下だったのです。
つまり、私たちは「自分が思うほど、他人は自分を見ていない」という事実を知るべきなのです。あなたが気にしているささいなミスや言動に、他人はほとんど注目していないのですから。
では、どうすれば「気にしない習慣」を身につけられるのでしょうか。私が実践している3つのステップを紹介します。
ステップ1 「別の視点」を持つ
自分を責めたくなったとき、「親友が同じ状況にいたら、何と声をかけるか」を考えてみてください。多くの場合、他者には優しくアドバイスできるのに、自分には厳しすぎる基準を課しています。
ステップ2 「2分間の呼吸法」を実践する
不安やイライラが高まったとき、2分間だけでも呼吸に意識を向けてみてください。吸うときは「1、2、3、4」と数え、吐くときも同じように数えます。この単純な行為が、扁桃体(感情の中枢)の活動を抑制し、前頭前皮質(感情制御や意思決定に関わる部位)を活性化させるのです。
ステップ3 「実験精神」を持つ
「失敗したらどうしよう」と考えるのではなく、「面白い実験をしてみよう」という心持ちで行動してみてください。成功も失敗も「データ収集」と捉えれば、過度なプレッシャーから解放されます。
私が研究を通じて最も重要だと感じているのは「ほどよさ」という概念です。 完璧を目指す必要はありません。心理学の研究では、「3位や4位」を目指した人のほうが、「1位」だけを目指した人よりも、長期的には良いパフォーマンスを発揮することがわかっています。 また、自己肯定感も「高すぎる」と周囲との軋轢を生みやすく、「低すぎる」と行動力が出ません。大切なのは「ほどよい」自己肯定感です。
多くの方は「こうあるべき」という固定観念に縛られています。しかし、「そんなに頑張らなくていい」と自分自身に許可を出すことが、「気疲れ」からの解放の第一歩です。
完璧でなくても、失敗しても、取り乱しても、それでいいのです。ヘマをしたら「まあ、人間だから」と肩をすくめる余裕を持ちましょう。そして何より、十分な睡眠を取ってください。寝不足は不安を増幅させますが、良質な睡眠は最高の「気疲れ」対策になりますから。
私たちは「生きている限りストレスとまったく無縁でいることはできない」という現実を受け入れつつも、そのストレスと上手に付き合っていく術を身につけることが大切です。
あなたも今日から、「気にしない習慣」を少しずつ取り入れてみませんか? きっと人生がもっと軽やかになるはずです。
内藤誼人(ないとう よしひと)
心理学者。立正大学客員教授。有限会社アンギルド代表。慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースにした心理学の応用に力を注いでおり、とりわけ「自分の望む人生を手に入れる」ための実践的なアドバイスに定評がある。著書多数。