
これまでのやり方で成果は出してきた。でも、この先も同じ働き方、生き方でいいのだろうか。人生の後半戦では、積み重ねてきた成功体験が、変化の足かせになることもあります。
2006年のベストセラー『レバレッジ・リーディング』をはじめ、数々の革新的な著書を世に送り出してきた本田直之さん。50代後半を迎えた本田さんが新たに提示するのが、「人生後半戦」をどう生きるかというテーマです。新著『セカンドハーフ戦略』(KADOKAWA)では、自分自身を実験台にして人生を組み直すアプローチが明かされています。
後半戦をアップデートできる人とできない人の違いは何なのでしょうか。
── 『セカンドハーフ戦略』に書かれていた「新しいことは、実験でいい」という言葉が印象的でした。この考え方に至った背景を教えていただけますか。
僕のテーマは、「人生は壮大な実験」ということです。新しいことを始める際、「チャレンジ」と大きく構えてしまうと、なかなか前に進めません。ですが、実験だと思えば失敗してもいいし、うまくいかなければやめればいいと思えます。「未完成のまま小さく試し、反応を見ながら直していく」。これを「β版思考」と呼んでいて、この発想に立てば行動のハードルが一気に下がります。
── 本田さんは、「戦い方、感情、身体、始め方、時間と場所の配置、人とのつながり」という6つの角度から、ご自身の実験をもとに人生後半を組み直していったと本にありました。中でも一番「これをはじめてよかった」と思うことは何でしたか。
一番は料理を始めたこと。中でも鮨を握れるようになろうと思ったのは、他の料理と比べてインパクトが大きいと考えたから。僕にとっての料理は人をもてなすためのものなので、鮨はピッタリ合っていました。オンラインの鮨学校で学んだあと、東京すしアカデミーに通い始めました。
── 東京すしアカデミーに通われたことで、ご自身の中でどんな変化がありましたか。
人をもてなす側に回れるようになったのが大きいです。それまではもてなされる側でしかなかったのが、今度は人に喜んでもらえるようになる。特に一年の半分近くは海外にいるので、日本人のアイデンティティが強く出る鮨は、海外でとても喜ばれます。鮨を学んだのは10年後、20年後を見据えたことですが、正直もっと早くやっとけばよかったなとも思います。
あえてそうした場に飛び込むのは、頭が固くなることが一番怖いからです。年齢を重ねると、周りも忖度するし、間違っていても指摘してくれる人が減っていく。気づかないうちに、いわば「めんどくさいおじさん」になってしまう。恥をかく場所に身を置き続けることで、頭を柔軟に保ち、誤った方向に進まずに済みます。



── 前半戦の成功体験を、後半戦に合わせて切り替えられる人と、そうでない人の違いはどこにあるとお考えですか。
前半戦がうまくいった人ほど、なかなか切り替えができないことがあります。成功体験の力が強いので、それを変えたくない、変えられないという気持ちが働くからです。
しかし、スポーツ選手を見ると成功体験が大きくても切り替えが上手い人がいます。たとえば三浦知良選手は僕より年上でまだ現役ですし、2026 FIFAワールドカップで活躍したメッシ選手も30代後半で、もうほとんど走っていないんですよ。代わりに、食生活なども含めて後半戦に合わせた戦い方に切り替えている。
本書のタイトルである「セカンドハーフ戦略」という名前も、そこから来ています。前半戦の成功体験に固執せず、一度立ち止まって戦略を組み直すことが大事です。
── 本田さんが人生後半戦に入るにあたって、やめてよかった習慣があれば教えてください。
「とりあえずビール」をやめたことです。体のOSを切り替えようとしていた時期に、お酒の飲み方も見直しました。ビールは食欲を刺激しますし、アルコール度数が低いので水のように飲めてしまう。そのペースでワインや日本酒に移るとアルコール度数が高いのでアルコール摂取量が跳ね上がってしまう。僕の場合、それが翌日の不調につながっていました。
そこで一杯目をお茶にして、二杯目から飲みたいものを頼むようにしたら、翌朝の体調や集中力が劇的に良くなった。これは、思考停止して頼む生き方自体をやめたことにもなります。
── 人生の中盤で「このままでいいのか」と迷う、ミッドライフクライシス。30代後半から40代半ばには、何かを変えたいと思っても、日々の仕事や家庭のことで手いっぱいという方もいます。最初の一歩を踏み出すには、どうしたらよいでしょうか。
子育てや介護など、色々な事情で時間が取れないというのはあると思います。大きなことをやろうとすると動けなくなりますが、歯磨きと同じ3分でいいからやりたいことをやろうと決めるんです。たとえば英語を話せるようになりたいなら、英語の勉強を1日3分だけ続けてみる。そうすれば、その積み重ねが1年後大きな違いを生みます。
何を始めるかを決めるには、自分が何を大事にしているかという価値観を理解しておくことが必要です。それがあってはじめて「何を捨て、何を始めるか」の取捨選択ができます。
── 会社員だと、役職定年などで自分の仕事の範囲が狭まり、選択肢を奪われたと感じてしまう人もいると思います。そうしたときは、どう対処するとよいでしょうか。
奪われたのではなく、自分から手放すという意識を持つことです。その分、本当にやりたかった仕事に集中する、空いた時間で副業を始めてみるといった発想に変わっていきます。
喪失感を持たないために、あらかじめ準備しておくことが大切です。会社内での自分の立場やこの先の展開は、ある程度読めるものです。役職定年になる5年ほど前から、社外コミュニティや趣味、副業など時間配分を変えられる場所を作っておく。すると立場が変わっても慌てずに済みます。
── 会社以外で新しい友人を作る機会がなかなかないという声もよく聞きますが、特に自分より若い世代とのつながりを作るためのアドバイスはありますか。
新しいことを始めるなら、その分野では相手のほうが上です。相手が20代であれ30代であれ「師匠」で、年齢は関係ない。ところが会社に長く勤めていると、年齢による上下関係に慣れてしまい、50代になって人から教わるという経験が少なくなります。新しいコミュニティに入るときには、年齢や肩書きをいったん全部手放して、相手から教わろうと謙虚に思えるかどうかが大事です。
親を見ているとわかりますが、同年代の友人とだけ交流していると、年齢を重ねるにつれて自然と友人の数が減っていきます。年下の友人がいると、自分とは違う価値観や、知らなかった世界にも触れられます。年齢を越えて教え合える関係を持つことが、これからますます大事になると思います。
── 本田さんのキャリアや価値観に大きな影響を与えた本は何でしたか。
外資系企業で営業をしていた社会人一年目の頃に読んだ、カーネギーの『人を動かす』です。最初はうまくいかなかった時期に、尊敬する上司がすすめてくれました。この本を読んだことで営業の仕方も考え方も一気に変わったんです。
当時は自社商品の良さをお客様に説明しなければと思い込んでいました。ですが、『人を動かす』では「相手の話をとにかく傾聴しなさい」とあり、その通りにしたらうまくいくようになっていった。話を聴くことで業界の課題がわかるようになり、「相談される存在」になっていけたんです。
今でも人と話すときは、半分以上は聴くように心がけています。そのほうが、新たなインプットができて楽しいですしね。


── 10年後、20年後を見据えて、新たに挑戦していることはありますか。
今、一番力を入れているのがヨットです。これまでやってきたアイアンマンのようなハードな競技は、70歳になっても続けられるかはわからない。その点、ヨットは年齢を重ねても楽しめるスポーツです。
日本では「高級クルーザー」のイメージが強いかもしれませんが、風に乗って、自分の力で船を動かしていく面白さがあります。自然と対峙するところは、僕がやってきたサーフィンにも通じます。海外では、アクティブなライフスタイルとして根づいているんです。
日本ではヨット人口の高齢化が進んでいますが、もっと若いうちから始める人が増えれば、ライフスタイルとして広がっていくと思います。その普及にも、少しでも貢献したいですね。
ヨットを通じて新しいコミュニティも広がりますし、妻がもともと大学でヨット部だったので、夫婦で楽しむにもちょうどいい。これから一緒に楽しんでいけたらと思っています。



本田直之(ほんだ なおゆき)
レバレッジコンサルティング株式会社代表取締役社長。シティバンクなどの外資系企業を経て、バックスグループの経営に参画し、常務取締役としてJASDAQ上場に導く。現在は日米のベンチャー企業への投資育成事業を行い、各社の社外取締役や顧問を兼務する。ハワイと東京に拠点を構え、1年のうち4ヶ月をハワイ、4ヶ月を東京、3ヶ月を日本各地で過ごし、残る1ヶ月は海外を旅しながら、仕事と遊びの垣根のないライフスタイルを送る。著書・監訳書はレバレッジシリーズなど78冊、累計300万部を突破し、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語、タイ語、ベトナム語に翻訳されている。明治大学商学部産業経営学科卒、サンダーバード国際経営大学院修了(MBA)。上智大学非常勤講師。日本ソムリエ協会認定ソムリエ、酒サムライ(令和6年度叙任者)、The Japan Times「Destination Restaurants」選考委員。「Honda Lab.」主宰。CROSS FM(福岡)でラジオ番組「本田直之Pau Hana Saturday」のナビゲーターを務める。