
クヨクヨ悩むのは「頭がお暇な状態」だから? 「AIメンタル相談」の注意点
「寝る前にクヨクヨ考えてしまい眠れない」 「できない自分をつい責めてしまう」 「人間関係のトラブルで悩むことが多い」
一つでもあてはまる方におすすめしたいのが、『心の中のネガティブさんと上手につきあう方法』(アチーブメント出版)です。 著者は、Xで約40万フォロワーを誇るインフルエンサーで、ベストセラーを多く持つ精神科医Tomyさん。 ネガティブな思考や感情を指す「心のネガティブさん」との上手なつきあい方を伺ってみました。
ライター・松尾美里
── 『心の中のネガティブさんと上手につきあう方法』を読んでいて救われる言葉に数多く出会えました。Tomyさんが本書を書かれた背景は何ですか。
きっかけは、アチーブメント出版の編集者の方からの提案でした。当初のテーマは「寝る前に考えてしまうのを持ち越さないためには?」でしたが、すでに類似した本を出したことがあった。そこで、別の切り口を探す中で出てきたのが「ネガティブさん」というテーマです。
意識したのは、ネガティブな感情や思考を「擬人化して捉える」という点。さまざまなネガティブ感情をまとめてガイドブックのように整理できれば、読者にとって面白く、実用的な一冊になるのではと考えたんです。
── 「心のネガティブさん」が訪れやすい人の特徴は何ですか。
特徴の一つ目は、「ネガティブをなんとかしなきゃ」と思いすぎることです。人間の感情は、想像以上にコロコロ変わるので、時が経てば自然とつらさや不安なども薄まっていくもの。ところが、「この気持ちをどうにかしなきゃ」と意識しすぎると、その気持ちをうまく処理できない自分のことをネガティブに捉えてしまいやすいんです。
大事なのは「まあそうだよね」と第三者の視点で軽く受け止めて、目の前のことに意識を向けることです。
二つ目の特徴は、「考えるのはよいこと」という思い込みを持っていること。「今ここ」に集中せず、過去や未来をつきつめる人ほど、空いた時間に余計なことを考えがち。これを「頭がお暇な人」と呼んでいます。「頭がお暇な人」は、一度思いついたことがぐるぐる頭の中を回り続けて、ますますネガティブになってしまうのも特徴です。
さらに三つ目の特徴ですが、「当たり前の水準」を高く設定しがちな人も要注意。「普通ならこれくらいできて当然」とハードルを上げて、自分を過小評価していることも。コップに水が半分あるとき、「半分しかない」と思うか「まだ半分ある」と思うか。その違いで、現実の捉え方は大きく変わるのです。

── ご著書では、「心のネガティブさん」をため込まないためには、自分の内面や体の様子を観察することが大事だとありました。心身のサインや違和感に気づくには、どうすればよいのでしょうか。
「普段の自分と比べてどうか」をつぶさに観察することです。第三者の目でセルフチェックすると、「今日はいつもより疲れている」「人に会いたくないな」「逆にエネルギーがあり余っているかも」などと、小さな変化に気づきやすくなります。
「自分は何が好きで、何が苦手か」を日常的にストックし、まるで「自分専用ツアーコンダクター」のように観察していくと、好不調の変化にすばやく対処しやすいんです。
人って真面目なので「落ち込んでいるから気持ちを変えよう」などと考えますが、それは簡単ではありません。認知行動療法やマインドフルネスなども効果はありますが、すぐに結果が出るものではない。
一方で、気持ちは体調と強く連動しているもの。だから「体調を整える」ことが、気持ちに直接働きかけるよりも効果的。例えば、よく眠れた日って、あまりマイナスなことを考えないですよね。だから体を整えることが、心のネガティブさん対策の近道です。
── 著書で「自分軸を鍛える」というテーマが印象的でした。家族や上司など周囲の要望に応えることを優先してきた人が自分軸を育てるためには、どうすればよいでしょうか。
僕が考える「自分軸」とは、「自分が納得して言動を選べている状態」です。人のために行動しても、自分でその理由を納得していればモヤモヤは残りません。例えば、相手のために一肌脱ごうとする場面でも、「本当は相手のことは好きじゃないけれど、今は関係を円滑にするために仕方ない」などと腑に落ちていれば、それも自分軸に沿った行動です。
逆に、納得していないのに「やらされている感」があると不満が積もっていく。だから行動や発言の前に、「これ、私は納得している?」とワンクッションを置いて確認する習慣が、自分軸を育てる一歩になります。
── 悩みには「過去を後悔する」パターンと「未来の不安を先取りする」パターンがあると思います。後者への対処法を知りたいです。
未来のことは準備してもし尽くせないので、未来を考えすぎると不安は膨らむ一方です。そこで僕は「『今』の範囲を狭くすればするほど人は幸せになれる」と話しています。「今」を「今日1日」に絞って、その日だけを意識すればいい。1ヶ月先や1年先まで考えるから、不安やプレッシャーが大きくなるんです。
── ただ、会社にいると四半期や年単位で目標を考える必要が出てきますよね。
もちろん、長期的な目標を立てることも必要です。ただ、その計画も「今日」という一日の中でやることです。効果的なのは、本書で紹介した「スケジューリング」。今日のタスクを箇条書きにして、一つずつ消していく。すると、「次の四半期の計画を考えて書き出す」というタスクを終えれば、「今日の分は終えた」と実感できます。
大事なのは、今日やるべきことをやったら「それ以上考えなくていい」と割り切ること。そうすることで、未来への過剰な不安を手放しやすくなります。
── 寝る前にクヨクヨ考えてしまう人も多いと思います。実は私も、平日夜は頭が冴えて、脳内トークが止まりません。そんな悩みへのアドバイスをお願いします。
不眠になりやすいのは「思考を持ち越す癖」がある人と言われています。寝る前に考えてしまうことの多くは「未来のこと」。ですが、明日のことを考えても、その時点では対策できません。だから考えるだけ無駄なんです。
まずは、思考のはじまりを「前の晩」ではなく「翌朝」にしましょう。一番よいのは「考えなくても大丈夫な状態」をつくっておくこと。そこでも「スケジューリング」が役に立ちます。朝起きたら一日のタスクを確認し、順にこなしていく。すべて消し終えたら「今日はもう何も考えなくていい」と割り切る。これを毎日のルーティンにすると、夜のクヨクヨが減り、自然と安心して眠れるようになりますよ。

── 最近、メンタルの相談を生成AIにする人が増えているそうです。AIをネガティブな思考や感情への対処に活用する可能性は高まるのでしょうか。
生成AIはあくまでツールにすぎません。ネットが普及し出した頃も「Google検索はよくない」「図書館で調べないとダメ」と言われましたが、今はGoogle検索は日常の光景になりましたよね。同じように、AIも活用したほうが得です。
もちろん依存するほどのレベルはダメですが、それは生成AI自体の問題ではなりません。依存する人は対象がAIであれSNSであれ、依存しますから。問題があるのは「依存する人」の側です。今のうちに、AIリテラシーを高めて上手に使うほうが賢いと思います。
── 逆に、メンタルケアにAIを活用する際、どんなリスクが考えられますか。
怖いのはAIを擬人化してしまうこと。最近は「AIを恋人代わりにする」といったニュースもありますが、AIを人間のように感じるのは危ういです。「作り物だ」とわかって相談するなら問題ありませんが、AIと人間との境界があいまいになりすぎないよう注意が必要です。
さらに、AIはハルシネーション(誤情報)を起こすため、「出まかせ」を自信満々にアウトプットすることがあります。現時点ではAIの不正確さが目に見えるので安心なものの、精度が飛躍的に上がっていったときが怖い。人々が「AIはほぼ間違えない」と思い始めたら、わずかなエラーでも大問題になりかねません。だからこそ、ユーザが「AIは100%正しいわけではない」と心得る必要がありますね。
── 私たちが安全にAIを活用するためのアドバイスはありますか。
「便利なツール」として割り切って使うことです。僕自身も、コラムを執筆する際に、話した内容をAIに書き起こしてもらうなど、時間短縮に役立てています。アイデアは自分で考え、AIには整理や構成を手伝ってもらう。これなら著作権の問題も避けられるし、自分のクリエイティブ性も保てます。
また、愚痴や悩みをAIに話してスッキリという使い方もいいですね。「AIに相談して気持ちが整理できた、元気が出た」というレベルならむしろ健全。ただし、「ハルシネーションの可能性を理解しておく」など、ツールの限界を知ることが大事です。
── これまで人生の転機で心の支えとなった本や言葉はありますか。
実は僕はあまり本を読まなくて、座右の書もないんです。人のカラーに染まるのは好きではないので、特定の本にどっぷりハマることはほぼないんですよね。どちらかというと自分との対話というかアウトプット型で、自ら納得できる考え方をつくってきました。
例えば「こういうシーンでは、こんな考え方がよしとされてきた。でも、別の見方のほうがしっくりくるのでは?」などと考えて、自分に適用してみる。役に立てば残すし、違うと感じたら手放すようにしています。こんなふうに、自分オリジナルで思考を練り上げることを大事にしています。
── Tomyさんのクリエイティビティの源泉はどこから来ているのでしょう?
まるで「ちびまる子ちゃん」のナレーションのように、言葉がふっと浮かんでくる感覚なんです。その中には、過去に蓄積されてきた言葉が、無意識に再構成されて出てきているケースもあるでしょう。
また、亡くなったパートナーとのやりとりでもらった言葉は、心の支えになりました。普段から気になる言葉やアイデアをメモしていて、それが自分を助けてくれることも多いですね。
── 最後に、今後挑戦したいことを教えてください。
まずは今のように「発信」を続けることです。Xなどでの言葉の発信も、診察、講演、本づくりなども、形式は違えど「人に役立つ考え方を伝える」という根っこは同じと捉えています。
そのうえで、今後はラジオやテレビでお悩み相談の番組に挑戦したいですね。ラジオやテレビといったオールドメディアって、SNSのように「主体的に知りたいと思った人がくる場」ではなく、「たまたま情報が目や耳に入ってくる場」ですよね。そうした受動的でも、偶然僕の考えにふれられるような場をつくることが、これからの目標です。
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精神科医Tomy
1978年生まれ。名古屋大学医学部卒業。医師免許取得後、名古屋大学精神科医局入局。精神保険指定医、日本精神神経学会専門医。約40万人フォロワーのX(旧・Twitter)が人気で、テレビ・ラジオなどマスコミ出演多数。著書に『精神科医Tomy の気にしない力』(だいわ文庫)、『精神科医Tomy が教える30代を悩まず生きる言葉』『精神科医Tomyが教える1秒で不安が吹き飛ぶ言葉』(以上、ダイヤモンド社)ほか多数。