
「好奇心ドリブン」で生きると、才能が爆発する
「自分の才能を発揮できたら楽しく生きられるんじゃないか」。そんな想いを抱いたことはありませんか。
佐野貴さんは、株式会社TALENT代表として才能研究を軸に、Podcast『TALENT TALK』でも活躍しています。これまで1,000人以上の才能を可視化・プロデュースしてきた佐野さんが、自分だけの「才能のトリセツ(取扱説明書)」をつくる方法を体系的にまとめたのが、『才能のトリセツ』(PHP研究所)です。
AI時代に才能を発揮する秘訣とは? メンバーの才能を生かしたチームづくりのヒントをお聞きします。
ライター・松尾美里
── 『才能のトリセツ』では、発動条件、欲求、才能、才能方程式、やりたいことの順に自分の内面を掘り下げていくプロセスがとても腑に落ちました。このワークシート誕生の背景についてお聞かせいただけますか。
もともと「自分らしい社会をつくりたい」という思いから、2018年に会社を立ち上げたんです。2020年頃、事業づくりがうまく進まず、自分の才能が見えなくなったことがあります。そこで自分の才能を見つめ直そうと、本格的に才能研究を始めたんです。
転機になったのが「動機付け理論」との出合いです。心理学の専門家と対話するうちに、人が動くプロセスには「欲求→行動→フィードバック」というループがあり、このループがうまく回っていると才能が発揮されるのではないかと考えたんです。
最初に思いついたのは、才能を発揮している条件を「3次元モデル」で可視化すること。X軸は「欲求と行動が一致しているかどうか」、Y軸は「自分の期待通りの結果が得られているかどうか」、そしてZ軸は「社会的評価などの客観的なフィードバックを得られているかどうか」。この3軸が揃った状態が「才能を発揮しているとき」なんですね。
たとえば、「ついつい気を配ってしまう」人が、その行動をとった結果、人から感謝される。こうして似た行動をくり返すうちに才能が磨かれるんです。
そこから、より才能を可視化しやすい形を考えた結果、現在のワークシートが生まれました。最初の「発動条件」は、ハーズバーグの二要因理論をもとにしています。動機付けが働くには、不満を引き起こす衛生要因を解消する必要があります。これは人が悩みやすい4大テーマ、つまり健康、仕事、人間関係、お金です。

そのうえで、「欲求」「才能」「才能方程式」「やりたいこと」をこの順に明らかにしていき、才能を整理します。自らの行動の癖を実生活で生かしていただけたら嬉しいです。



── 本書の「才能とは他者との関係性のなかで発揮される」という一節が心に響きました。この言葉にはどんな想いが込められているのでしょうか。
それは嬉しい感想です。『才能のトリセツ』は「関係性」というキーワードに出合わなければ書けなかったと思っています。実は、才能研究を始めた頃は、「一人ひとりが才能を発揮できれば、社会全体が幸せになる」と考えていました。ですが、各自のでこぼこがパズルのように噛み合うことは難しく、関係性をよくする土壌づくりが重要だと気づいたんです。
株式会社TALENTでは企業の組織開発を支援していますが、うまくいっている組織には共通点があります。それは、人間関係が尊重され、相互協力の文化が根づいていること。逆に、新しいメンバーが加わったことで他の才能が発揮されなくなる組織も見てきました。
ここから言えるのは、関係性が環境をつくるということ。どれだけ素晴らしい才能があっても、安心して表に出せる関係性がなければ埋もれてしまう。この発想は、TALENTのパーパス「あふれる才能の輝きで、世界を幸せで満たす。」にもつながっています。
── 関係性をよりよくするための方法論はありますか。
組織やチームで才能を発揮するために重要なのは「バリュー(価値観)づくり」です。これは、チームで合意された判断基準のこと。たとえば、物事を速く進めたい人と慎重に進めたい人がぶつかったとき、進め方のバリューがなければいずれかの才能が抑圧されてしまう。だけど、「スピード重視」のバリューがあれば、それを指針にして互いに歩み寄れるんです。
── 佐野さんご自身が才能を研究しようと思った原体験があれば教えていただけますか。
大きく影響したのは、自分の才能がわからなくなってしまった時期です。僕は昔から、何でも器用にこなす「マルチプレイヤー」と言われる一方で、それがコンプレックスでもありました。一つでも誇れる才能があれば、自分を肯定できる気がしたんです。ところが、当時流行っていた才能診断ツールを使ってもピンとこなくて……。
ただ、僕は他人のよいところを見つけるのは得意でした。それなら自分で自分の才能を見つける理論をつくろうと思ったのが出発点です。
── 相手のよいところを見つける際のカギは何ですか。
相手に「ちょっとわがままになってもらうこと」です。たとえば、昔お付き合いしていた方が素の自分を抑えているように見えたことがありました。「もう少しわがままになってもいいんじゃない?」と伝えたところ、徐々に本音を話してくれるようになり、本質的な思考力を発揮しはじめたんです。
その経験から、職場の関係性でも相手に「わがままになってもらう」ことを大事にするようになりました。メンバーにもできるだけフラットに話すようにしています。そのほうがプライベートで発揮している「B面の才能」が出てきやすいんです。
心理学に「自己複雑性」という概念があります。人間には多様な側面があり、それらを自由に使い分けられるほうが、心が安定する。たとえば、家族旅行の段取りではリーダーシップを発揮する人が、職場では遠慮してしまうのはもったいないですよね。自らの多面性をまるごと肯定することが才能発揮の第一歩になります。

── 才能発揮において意識するといい点があればアドバイスをお願いします。
まず大前提として、「才能は発揮されて初めて意味を持つ」ということです。本書では、才能を「見つける」だけでなく「生かす」ことを目指しました。実際に行動してフィードバックを受けると自己理解が深まるので、「才能を使う」ことが何より大切になります。
才能のトリセツが「発動条件」で始まり、次が「欲求」になっているのはそのためです。環境と欲求を整えれば、才能は自然と表に出てきますから。才能を見つけてから発揮するのではなく、発揮する中で見つけていくんです。
さらに、フィードバックを振り返ると、たとえば「丁寧に準備をする」「相手に寄り添う」といった動詞が自然と浮かんでくる。そうした自分ならではの成功法則を見つめていただけると嬉しいです。
僕の場合は、新しい人や環境に接すると行動の意欲が上がります。「冒険したい」という欲求が行動のエンジンになっているからです。
欲求は人生の判断基準にもなります。たとえば僕の場合は「冒険したい」という欲求が満たされない仕事はやらないと決めています。
── 生成AIの登場によって、知的労働のあり方も変化しています。そうした時代において、「人間の才能」はどのような意味を持つようになるとお考えですか。
いまは、AIで苦手なことをどんどん補える時代になっています。たとえば資料作成やデータ分析もAIが代行してくれる。AIは「弱みを克服し得意に集中させてくれる存在」です。
それを踏まえた上で、人間は次のフェーズに進むと捉えています。ホワイトカラーの仕事の多くはなくなっていくでしょう。その中で人間にしか発揮できない価値は「好奇心」だと思っています。
好奇心は「才能のトリセツ」の欲求そのもの。人間の衝動や探求心は、まだAIには真似できません。しかも、AIが社会に役立つことを担ってくれるので、人間は「役に立つか」よりも、好奇心ドリブンでいるほうが、もっと自由に生きられるはずです。
── AI時代において、好奇心ドリブンで生きるために大事な発想やスキルはありますか。
エンジニアの思考や構造化スキルを身につけると、AIとの協働の幅が広がります。弊社の「AI / DX事業部」では、AIを活用した業務改善やシステム構築を行っています。Claudeにコードを生成させ、Geminiと連携させてエラー処理を自動化しています。AI同士が対話してコーディングを最適化するので、夜のうちにシステムが開発されているという時代になりました。このように、昔なら30人のエンジニアが必要だったプロジェクトが1人とAIで成り立つケースが増えています。
さらには、専門家がAIを使うと、その真価が発揮されます。たとえば、AIは記事のたたき台作成はできても、まだまだ文脈の判断やコンセプトに沿った編集は苦手。プロの目で「伝わる文章」にするのは人間の役割になります。こんなふうに、好奇心とプロフェッショナリズムが掛け合わさると、創造が爆発的に加速します。

── AIは才能の可視化や開花のサポートにも活用できそうですね。
まさにそうです。AIは自分の欲求を掘り下げる対話相手になってくれます。たとえば『才能のトリセツ』の問いと自分の回答をAIに投げて、「『なぜ?』と3回掘り下げて」と頼めば、自分の内面が整理されてきます。
さらに、「才能のトリセツ」をAIに読み込ませておき、仕事の悩みを相談すると、自分の才能や欲求に応じた解決策を提案してくれるんです。僕の経験上、9割以上の確率で納得のいくアドバイスが返ってくるので、自分専用のコーチができた感覚になります。
この方法は採用にも生かせます。弊社では応募者の「才能のトリセツ」をもとに、自社のカルチャーと合っているかを判断しています。すると採用がより本質的なものになり、人材のミスマッチを防ぎやすくなるんです。
しかも、ChatGPTには僕の「言葉の癖」まで学んでもらえるので、メールや企画書を書く際に「敬語で僕っぽく」といった指示もできる。すると自分らしいトーンの文章ができて、仕事のスピードも質もグッと高まります。

── 組織づくりやチーム運営に『才能のトリセツ』を生かせたらと思っています。適材適所を目指して試行錯誤している組織は多いですが、組織や部署のミッションとメンバーの才能の重なりを広げるにはどうするとよいでしょうか。
重なりを広げていく魔法の技術に「ジョブクラフティング」があります。仕事のやり方・関係性・意味づけを自分で再設計していく考え方のことです。たとえば、資料作成をAIで効率化するのは、「やり方のクラフティング」。人との関係性で声のかけ方を少し変えるといった工夫は、「関係性のクラフティング」にあたります。
中でも最強なのが、仕事に対する意味づけを変える「認知クラフティング」です。僕が社会人1年目のとき、セミナーの文字起こしが退屈だったのですが、当時の上司に2つの目標を設定するようアドバイスされました。そこで「すばやく正確にタイプできるようになる」「学んだことを必ず実行する」と設定した。すると、1年後には文字起こしが格段に速くなり、議事録作成も得意になりました。しかも、学びを行動に落とし込む習慣がついたので、フィードバックループが回り始めたんです。
リーダーはメンバーに、「この仕事はあなたのどんな欲求とつながってる?」と質問するといいと思います。メンバー全員で「才能のトリセツ」を共有しておくと、各メンバーの欲求とプロジェクトとの意味づけを考えるヒントになります。
個人が自分の欲求をベースに仕事に意味づけをすること。そして、リーダーがそのプロセスを支援し、伴走すること。この両輪が回れば、個人と組織のミッションの重なりが自然と広がっていくはずです。
── 最後に、佐野さんの新たな冒険について教えてください。
これからは「人の欲求と才能を生かした事業開発会社」に挑戦していきます。「この人の欲求と才能が生きる事業は何か?」という視点から新しい事業を一緒につくるんです。
「Startup Studio」と呼ばれるモデルに近いですが、ポイントは「才能ドリブン」であること。現在、社内でまったく異なる2つの事業を立ち上げていて、8〜9月頃にリリース予定です。いずれも関わるメンバーの才能が起点になっています。
こんな挑戦ができるのもAIのおかげ。開発スピードが速くなり、才能を形にするハードルが下がりました。才能を起点に事業を共創していく場、「Startup Studio for Talent」を立ち上げる――。それが僕の次なる冒険です。一人ひとりが才能ドリブンで生きると、未来がもっと面白くなると信じて、その土壌をつくりたいですね。



佐野貴(さの たかし)
株式会社TALENT代表取締役。IT上場企業入社後、新規事業責任者を務め売却し独立。2018年に株式会社TALENTを設立し「才能」に着目したタレント人材の支援事業を創出。Podcast番組「COTEN RADIO」を運営する、株式会社COTENにて取締役及び人事責任者を兼任した後、2022年末に退任。現在は、当社にて心理学を基盤とした才能研究のデータを元に、組織・人材開発、チームビルディング支援、プロデュース、スクール事業などを展開。延べ1000名以上の才能を支援。2024年 Forbes NEXT100に選出。「TALENT TALK」「みんラボ」「COTEN RADIO番外編」配信中。